痴漢の虚偽告訴

2021-05-14

痴漢の虚偽告訴について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

東京都内に住むAさんは、被害者から示談金を巻き上げお金を手に入れようと考えました。そこで、Aさんは高校の同級生だったBさんに電話し、Aさんが痴漢の目撃者役となること、Bさんが痴漢の被害者役となることを提案し、Bさんもこれを了承しました。その後、AさんとBさんは山手線の電車に乗り、痴漢をしそうな男性Vさんに目星をつけ、AさんがVさんに「今、Bに痴漢しましたよね。」、「見てましたよ。」といい、Bさんも「触られました。」と痴漢の被害にあったことを演じました。Aさん、Bさん、Vさんは駅で降り、通報を受け駆け付けた駅員、警察官に事情を聴かれました。そこで、Bさんは警察官に「痴漢の被害に遭いました。」「被害届を提出します。」「犯人を処罰してください。」といい、Aさんは警察官に「犯人が触っているところを見ました。」と言いました。ところが、その後の捜査で、この一連のことがAさん、Bさんのでっちあげであったことが判明し、Aさん、Bさんは虚偽告訴罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)

~ 虚偽告訴罪とは ~

虚偽告訴罪は刑法172条に規定されています。

刑法172条  
 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。

~ なぜ、処罰されるの? ~

告訴等をすることで、捜査機関はその事件に関して人や時間、労力を使います。ところが、虚偽の告訴等を許すと、本来、人や時間、労力をかけるべき事件に人、時間、労力をかけることができなくなり、結果、事案の真相の発見、刑罰法令の適切な適用という刑事司法作用を害することになります。これが一番の理由です。
また、虚偽告訴等を許すことで、本来、捜査を受けるべきでない人を捜査したり、逮捕されるべきでない人を逮捕するなどして誤認逮捕、えん罪を生み出しかねず、個人の権利・人権を害することにもつながってしまいます。この点も無視することはできません。

~ どうしたら虚偽告訴罪に問われるの? ~

虚偽告訴罪は、「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした」場合に成立します。

まず、「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」が必要です。
「刑事処分」の典型は、懲役刑、罰金刑などの刑罰でしょう。そのほかにも、少年に対する保護処分も含まれます。
懲戒処分は、公務員に対する行政法上の懲戒処分のほか、刑事施設の被収容者に対する懲罰なども含まれます。
「目的」は、他人が刑事処分を受けるであろうことを認識することをいいます。通常、捜査機関に告訴等をすればこの目的ありとされるでしょう。
しかし、ネット上でありもしない情報を書き込んだり、ネット上で批判をしたり、誤った内容をスキャンダルとして発信し中傷することは、中傷された相手に刑事処分・懲戒処分を受けさせる目的がないため虚偽告訴罪には該当しません。

次に、「虚偽の告訴、告発その他の申告をした」ことが必要です。
「虚偽」とは、申告の内容をなすところの刑事・懲戒処分の原因となる事実が、客観的真実に反することをいいます。
したがって、虚偽だと思って申告したところ、たまたま犯人だったという場合は客観的真実に反しないため虚偽告訴罪は成立しません。
「申告」とは、自ら進んで事実を告知することをいいます。
告訴、告発の相手方は捜査機関です。懲戒処分は任命権者、その他の監督者です。

~ 虚偽告訴罪に似ている罪 ~

軽犯罪法1条16号に規定されている「虚構申告の罪」です。
罰則は拘留又は科料です。

虚構申告の罪は、虚構、つまり、根も葉もない事実(犯罪、災害の事実)を公務員に申し出ることによって成立します。
虚偽告訴罪との一番の違いは、「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」を必要とされていない点です。

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