痴漢で略式起訴
痴漢事件における略式起訴について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士が解説します。
Aさんは、東京都新宿区を走行する電車内で、隣の席に座っていた女性がうたた寝をしていたことから、その隙を狙ってVさんの太ももや脚などを触りました。そうしたところ、AさんはVさんに手を握られ、「さっき痴漢しましたよね?」「触りましたよね?」などと声をかけられ、降車駅の四ツ谷駅において駆け付けた駅員とともに駅員室へ連れていかれました。そして、駅員室へ駆けつけた四谷警察署の警察官に身柄を引き渡されました。その後、Aさんは勾留され、勾留期間中、弁護人を通じて示談交渉を試みましたが示談を成立させることはできませんでした。最終的に、Aさんは、東京都迷惑行為防止条例違反で略式起訴されてしまいました。
(フィクションです)
~ 痴漢行為と条例 ~
各都道府県自治体が定める迷惑行為防止条例には痴漢行為を禁止する規定が設けられています。東京都迷惑行為防止条例(以下、条例)を例にとると、その5条1項1号に痴漢行為を禁止する規定が設けられています。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
罰則は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」、常習として痴漢行為を行った際の罰則で「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」です。
~ 略式起訴とは? ~
検察官が行う起訴には「正式起訴」と「略式起訴」の2種類があります。
「正式起訴」は、裁判所に対し、皆さんもテレビドラマなどでよくみる公開の法廷で裁判(正式裁判)を開くことを求めるものに対し、「略式起訴」は、裁判所に対し、公開の法廷ではなく書面のみでの裁判(略式裁判)を求めるものです。
~ 検察官が略式起訴するには? ~
憲法上、全ての国民には公開の法廷で裁判を受ける権利が認められています。ところが、略式起訴は、いわばその手続きを省略する手続きですから、検察官が略式起訴するには、被疑者からの同意を得る必要があります。
また、仮に略式起訴され、裁判官により略式命令を発せられたとしても、その告知を受けた日から14日間以内は正式裁判の申し立てをすることができます。
~ 略式裁判(略式起訴)を受けるメリット ~
略式裁判を受けるメリットとしては、
・懲役刑を受けるおそれがない(略式命令では100万円以下の罰金又は科料の刑の命令しか出せない)
→将来、刑務所で服役するおそれがなくなる
・公開の法廷に出廷する必要がない
→会社を休む必要がない(通常の日常生活を送れる)、裁判を他人の目に晒されることはない(事件を秘密にできる)
ことのほか、身柄を拘束されている場合は
・略式命令を受けた時点で釈放される
→早期釈放
という点を挙げることができます。
ただし、略式裁判は通常の裁判手続を省略する裁判です。裁判官があなたの言い分を聴く機会は設けられませんから、痴漢行為を否認する場合は、略式手続に応じてはいけません。通常の裁判で事実を争う必要があります。
~ 略式命令を受けたら? ~
裁判官により「被告人を罰金●●万円に処する」との命令が発せられると、その命令の内容が記載された略式命令謄本の交付を受けます。
勾留により身柄を拘束されている場合は、護送の下、裁判所へ出頭し、裁判所で謄本の交付を受けます。そして、先ほどご説明したとおり、交付を受けた段階で釈放されます。
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