【事例解説】教師が痴漢して逃亡、民家に逃走(前編)
教師が痴漢して逃亡、民家に逃げ込んだ事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
愛知県内の中学校に教師として勤めるAさんは、退勤途中の電車でつい魔が差し、女子大生Bさんの下半身を触りました。
そうしたところ、Bさんが周囲の人に助けを求めたため、Aさんは取り押さえられました。
次の駅に着き、電車から降ろされたタイミングで隙を見計らい、Aさんは拘束を振りほどき逃亡し、駅から程近くの民家の庭に身を潜めました。
そうしたところ、民家の家主Cさんが庭に怪しい人影を見かけ、警察に通報し、駆け付けた警察によってAさんは逮捕されることとなりました。
(フィクションです)
【痴漢には何罪が成立するのか】
痴漢行為は、被害者の尊厳を侵害し、社会的な不安を引き起こすため、法的に厳しく取り締まられています。
この取締に関しては、大きく分けて二つの法規が関連します。
1つ目は、迷惑行為防止条例です。この条例は、公共の場での不適切な行為を防ぐ目的で各都道府県ごとに制定されています。痴漢行為もその対象となり、服の上から体に軽く触れた等の比較的軽微な場合は、この条例によって処罰されることが多いです。
この条例によって科される刑罰も都道府県ごとに異なり、例えば、「愛知県迷惑防止防止条例」に違反して痴漢行為をした場合、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となり(愛知県迷惑防止条例 第15条1項)、常習として繰り返し違反行為をした場合には、「2年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となります(第15条2項)。
他方、「岐阜県迷惑防止条例」に違反して痴漢行為をした場合は、「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」(岐阜県迷惑防止条例 第13条1項1号)となり、「常習」として繰り返し違反行為をした場合には、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」となります(第13条8項)。
2つ目は、刑法第176条に定められる不同意わいせつ罪の規定です。
衣服やスカートの中に手を入れて直接体を触るなど、軽微とはいえないような痴漢の場合は、迷惑行為防止条例違反ではなく刑法に定められている「不同意わいせつ」で処罰される可能性があります。
刑法176条は刑罰として、「六月以上十年以下の拘禁刑」が定められています。
上記のように迷惑行為防止条例違反よりも不同意わいせつのほうが法定刑が重く、どちらで捜査されて事件が進行していくかは、被疑者にとって重要といえます。
また、今回の事例では、AさんはCさん宅の庭に勝手に侵入していることから、建造物侵入罪に問われる可能性があります。建造物侵入罪は刑法第130条に定められており、簡単にいえば、住居や邸宅以外の建造物に所有者の許可や正当な理由なく侵入すると成立する犯罪です。
その刑罰として「三年以下の懲役又は十万円以下の罰金」が定められています。