【事例解説】アイドルに抱き着き逮捕(後編)
握手会の会場を出たアイドルに背後から抱きついたとして暴行罪の疑いで男性が逮捕された刑事事件例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
Aは、好きなアイドルが握手会をしている会場で待ち伏せし、アイドルが会場を出てきたところに背後から抱きつきました。
Aはその場でスタッフらに取り押さえられ、警察に引き渡されました。
警察の調べに対し「ハグしただけで暴行や痴漢はしていない」と供述し、暴行罪などの容疑を否認しているようです。
(フィクションです。)
【痴漢行為とその罰則】
前編では不同意わいせつにあたる可能性を解説しましたが、それに当たらずとも、痴漢行為として迷惑行為防止条例違反などで起訴される可能性もあります。
たとえば大阪府迷惑防止条例では、その第6条第2項第1号で痴漢行為を規制しています。
第六条 (卑わいな行為の禁止)
2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
今回の事例のような行為は、上記の「卑わいな行為」に当たる可能性が高いといえます。
大阪府迷惑防止条例において、このような痴漢行為の法定刑は「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」となっています。
不同意わいせつ罪との区別に際しての明確な基準はありませんが、迷惑防止条例違反よりも重い不同意わいせつにあたるとされる事件の傾向としては、
・瞬間的に触るだけでなく、長時間にわたって触り続けた場合
・単純に触るのみでなく、揉んだり、押し付けるといった態様の場合
・抱きつく、押し倒すといった行為
・下着の上から触るのではなく、下着の中にまで手を入れた場合
・被害者の年齢が若い場合
などが挙げられるでしょう。
【今後の流れ】
Aは暴行の疑いで逮捕されていますが、抱きつき行為の目的や、その具体的な状況次第によっては、暴行事件ではなく、不同意わいせつ事件や未遂事件、迷惑行為防止条例違反として手続きが進んでいく場合もあり得ます。
不同意わいせつ罪の法定刑には罰金が定められていませんので、仮に検察官が事件を不同意わいせつ事件として起訴した場合に必ず正式な裁判が開かれることになります。
従って、暴行罪や痴漢よりも不同意わいせつ罪のほうが重い犯罪であるといえますので、事件が暴行事件や痴漢事件として処理されるのか、不同意わいせつ事件として処理されるのかはその後の手続が大きく異なる可能性があります。
そのため警察の取り調べにおいては、取り調べを担当する警察官の誘導に引っかかって、抱きつき行為が不同意わいせつ罪に当たるようなものであったと虚偽の自白してしまわないよう、取調べには十分注意して臨む必要があります。
警察署の取調室という密室で、取調べのプロである警察官を相手に虚偽の自白を行わないようにするためには、事前に弁護士に相談して警察での取調べ等の対応についてアドバイスを得ておくことをお勧めします。