【事例解説】国家公務員がバス内で痴漢を行ったとして逮捕
国家公務員がバス内で痴漢を行ったとして逮捕された事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事例】
東京都内で国家公務員として働くAさんは、通勤中、カバンを右手に持ってバスに乗車していました。そうしたところ、バスの停車時の揺れでカバンを持っている右手が20代の女性の臀部に当たってしまいました。
そうしたところ、その女性が痴漢だと思い込み、「痴漢です」と声を上げたことで、周囲の乗客にAさんは取り押さえられ、次の駅で降ろされました。
Aさんは、バスから降ろされた後も暴れていたため、その場に駆け付けた警察官に不同意わいせつの疑いで現行犯逮捕されてしまいました。
警察から、Aさんを逮捕したと連絡を受けたAさんの妻は、すぐに釈放に動いてもらうため弁護士に依頼して初回接見に行ってもらうことにしました。
(この事例はフィクションです。)
【不同意わいせつ罪とは】
不同意わいせつ罪とは、2023年の刑法改正により新設された罪で、刑法176条(出典/e-GOV法令検索)に定められており、同176条所定の事由により、「同意しない意思を形成、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」という犯罪です。また、その刑罰として「六月以上十年以下の拘禁刑」が定められています。
今回の事例は、刑法176条第1項5号に定められる「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」に乗じて、わいせつな行為と評価されるため、不同意わいせつの疑いで逮捕されたと考えられます。
【公務員に前科がついてしまうと】
国家公務員については国家公務員法76条および38条1号は「禁錮以上の刑に処せられた者」(執行猶予付きを含む)は、失職(処分として免職されるのではなく、当然にその職を失うこと)する旨を定めています。
そのため、国家公務員が拘禁刑を定める不同意わいせつ罪で有罪になると失職してしまい、その後の生活にも大きな支障が出るため、いち早く弁護士に依頼して事件に介入してもらう事をお勧めします。
【不同意わいせつ罪で逮捕された場合の弁護活動】
今回の事例において、まずは、まず早期の身体解放を目指します。具体的には、逮捕後に勾留手続に進まないよう、逮捕後直ちに、弁護士が逮捕された者と面会して直接事件の内容を聴取することで、今後の事件の見通しを示し、取調べへの対応を検討します。
逮捕は、最長72時間の時間制限があり、その後に検察官が行う勾留請求によって裁判所が勾留決定を出せば、10日間から20日間も身体拘束が続くことになるため、もしも拘束された場合には日常生活に大きな支障が出る可能性が高いです。そこでこれを阻止するために、弁護士は、検察官や裁判官と交渉し、逮捕後の勾留を阻止するための主張を行う、勾留決定に対して準抗告を行うなど、釈放に向けた働きかけを行います。
またこれらの身柄解放活動の後は、2通りの弁護活動が考えられます。
①痴漢の事実を認める場合
痴漢の事実を認める場合は、被害者との間での示談交渉を行い、宥恕条項つきの示談締結を目指します。
早期に被害者との示談を成立することができれば、検察官による不起訴処分や裁判を経ても執行猶予判決を受ける可能性を高めうるといえます。
また、起訴され正式裁判となった場合であっても、被害者の方との示談が成立した場合はその事実を裁判所に主張し、これに加えて、被害弁償が済んでいること等を主張して、執行猶予判決の獲得を目指します。
②痴漢の事実を認めない場合
痴漢の事実を認めない場合は、弁護士との打ち合わせを通じて、最大限の防御活動を展開します。
具体的には、自白調書を作られないように取り調べへのアドバイスを行い、さらに嫌疑不十分での不起訴獲得を目指します。
また、起訴され正式裁判となった場合であっても、証拠調べや証人への反対尋問等を行い、無罪判決の獲得を目指します。