痴漢事件を起こし、被害者によって逮捕
今回は、被害者自身によって痴漢事件の被疑者が逮捕された場合の刑事手続につき、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
~ケース~
Aさんは、大阪府内を走る電車内において、乗客であるVの臀部を着衣越しに触れてしまいました。
Vは犯行に気付き、自らAさんの腕を掴んで「あなた痴漢しましたよね。確かに触られましたよ。次の駅で降りましょう」と告げました。
Aさんは、駅員室や警察で少し怒られるなどした後、解放されるだろうと考え、Vの求めに応じました。
間もなく駆け付けた大阪府鉄道警察隊に引き渡されたAさんは、パトカーの中で警察官から、「あなたはもうVさんによって逮捕されているから、しばらくは帰れないものと思っておいてほしい」と告げられました。
すぐに解放されると思っていたAさんとしては青天の霹靂であり、また、民間人であるVが自身を適法に逮捕し得るのか、疑問に感じています。
上記事実関係は法律上、どのように評価されるのでしょうか。(フィクションです)
~現行犯は民間人でも逮捕できる~
刑事訴訟法第213条によれば、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」とされています。
「現行犯人」とは、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」をいいます(刑事訴訟法第212条1項)。
Aさんの行為は、大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反の罪(「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、公共の場所又は公共の乗物において、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること」同条例第6条の1第1号)を構成する可能性が高いでしょう。
まさにVの臀部に触れている時、または、触れた直後のAさんは「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」に該当することになると考えられます。
上記によれば、Vは、現行犯人であるAさんの腕を掴むなどして、これを現行犯逮捕したものということができるでしょう。
~逮捕後の手続~
検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法第214条)。
Vによって、Aさんを取り調べたり、どこかに留置することはできません。
このような行為を行った場合、反対にVが監禁罪に問われる可能性があります(東京高等裁判所昭和55年10月7日判決)。
ケースの場合は、駆け付けた鉄道警察隊の警察官にAさんを引き渡したものと考えられるので、やはりこの点においても刑事手続は適法でしょう。
また、検察官、検察事務官又は司法警察職員が現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、令状なく、①人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること、②逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすることができます。
しかし、現行犯人を逮捕した私人は上記の処分を行うことができません(刑事訴訟法第220条第1項1号~2号、第3項)。
~警察署に引致された後の弁護活動~
Vによって逮捕されてしまった以上、留置場に入らなければならない可能性は十分あります。
反対に、留置の必要が認められなければ、直ちに釈放されます(刑事訴訟法第203条、216条)。
身体拘束がなされた状態で事件解決を目指すよりも、釈放された状態でこれを目指す方が良いのは当然です。
ケースの場合、Aさんが初犯であって、AさんとVの生活圏が相当程度離れており、信頼できる身元引受人を用意することができれば、比較的早期の釈放を実現することができるかもしれません。
まずは、早期に弁護士を依頼し、事件解決に向けたアドバイスを受けるのがよいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が痴漢の疑いで逮捕されてしまい、お困りの方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。