「卑わいな言動」で逮捕
「卑わいな言動」で逮捕
A(男性)は,兵庫県芦屋市内の居酒屋において1人で飲んでいたところ,酔っ払ったAは,隣のカウンター席に座っていたV(女性)の胸部をいきなり服の上からまさぐった。
このとき、Aは性的な目的で行為に及んだわけではなく、飽くまでもVをからかって楽しむつもりだった。
兵庫県芦屋警察署の警察官は,Aを兵庫県迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕した。
Aの家族は,痴漢事件に強いと評判の弁護士に相談することにした(本件は事実を基にしたフィクションです。)。
~痴漢に適用される「迷惑行為防止条例」の規定の差異~
兵庫県公衆に著しく迷惑を掛ける暴力的不良行為等の防止に関する条例(一部抜粋)
第3条の2 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動
各都道府県が制定する迷惑行為防止条例は,それぞれの地方自治体における議会での議論状況などに関連して,やや文言や適用範囲に差があるものの,「卑わいな言動」といういわば包括的(抽象的)な規定を置き,痴漢行為等を広く処罰しようとしている点では共通しています。
もっとも,例えば兵庫県や千葉県の迷惑行為防止条例のように,服の上から身体を触るなどの痴漢行為を直接規定せず,この「卑わいな言動」という包括的規定のみを定める条例も存在します。
本件Aの行為も,この「卑わい言動」にあたる痴漢行為として,迷惑行為防止条例違反の容疑で逮捕されてしまっています。
さらに迷惑行為防止条例の規定には,「卑わいな言動」という文言の他に,多くは「不安をおぼさせる」という方法による限定を加えています。
「不安をおぼえさせる」とは,身体に対する危険を感じさせ,あるいは心理的圧迫を与えることをいうとされています。
本件では,Vは見ず知らずのAからいきなり胸をまさぐられており,心理的圧迫を受けていることに疑いはないでしょう。
したがって,Aの行為は「卑わいな言動」という文言にかかる「不安をおぼえさせる」という要件を満たすものと考えられます。
~「卑わいな言動」と性的意図の有無~
平成29年11月29日、最高裁判所において、強制わいせつ罪(刑法176条)に関する重要な判決が出されました。
上記大法廷判決は,強制わいせつ罪の成立に関して行為者の性的意図の要否を問題とするものです。
同判決は, 「強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難し」いとし,従来の判例(最判昭和45年1月29日)を明示的に変更し,強制わいせつ罪の成立にあたっては性的意図の存在は必ずしも必要ないと判示しました。
他方、迷惑行為防止条例における「卑わいな言動」の意味については、かつて北海道において問題となったことがあります。
その最高裁判例によると、「卑わいな言動」とは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語または動作を指すとされています。
この定義に行為者の性的意図は直接関わっていないことから、「卑わいな言動」についても行為者の性的意図は犯罪の成否に基本関係ないと考えられます。
そうすると、上記事例のAさんも迷惑行為防止条例違反に当たる可能性があるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,迷惑行為防止条例違反を含む痴漢事件などの刑事事件を専門的に取り扱っている法律事務所です。
近年では,条例違反による痴漢事件など比較的軽微な事件については,勾留(原則10日間の身体拘束処分)請求まではされなかったり,勾留請求却下されたりすることが統計上も有意に増えているといわれています。
痴漢事件で逮捕された方のご家族は,弊所フリーダイヤル(0120-631-881)までお早目にお電話ください。
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