痴漢事件が裁判員裁判に

2020-10-10

今回は、裁判員裁判にもなりうる、悪質な痴漢事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。

~ケース~

埼玉県新座市に住むAさんは、職場からの帰り道、魔が差したのか、やにわに目の前を歩いていた女性Vの腰に抱きつき、陰部を弄んでしまいました。
Vが激しく抵抗したので、少し揉み合ったところ、Vの手のひら等に怪我を負わせてしまいました。
後日、Aさんは埼玉県新座警察署強制わいせつ致傷の疑いで逮捕されてしまいました。
Aさんは、よくある痴漢事件であると考えていて、示談などがまとまれば穏便に解決できるだろうと考えています。
果たして、本ケースの手続はどのように進行するのでしょうか。(フィクションです)

~Aさんの見通しは完全に甘い~

Aさんは強制わいせつ致傷罪の嫌疑をかけられています。
被害者の臀部を着衣越しに触るなど、典型的な痴漢事件であれば、迷惑防止条例違反の罪を構成するに留まることがほとんどです。
しかし、陰部を弄ぶような行為は強制わいせつにあたり、これにより相手を負傷させれば強制わいせつ致傷となります。
強制わいせつ致傷罪は、刑法典に記載されている犯罪類型(刑法第181条1項)であり、法定刑も「無期又は三年以上の懲役」となっています。
迷惑防止条例違反の罪を構成するに留まる場合と比べて格段に重い罪ということができます。

~今後の手続はどのように進むか~

法定刑がここまで重いと、Aさんの考えているように、示談をするだけで穏便にすませられる可能性はかなり低いでしょう。

逮捕・勾留が長引く可能性が高いことはもちろんのこと、起訴された後も、保釈を実現できるまで身体拘束が続く可能性が十分考えられます。
保釈自体容易に認められません。
被害者が示談に応じてくれる場合であっても、極めて高額な示談金を支払う必要が見込まれます。
さらに、実刑判決を受ける可能性も考慮しなければなりません。

~ケースの事件は裁判員裁判対象事件~

ケースの事件は、無期懲役に当たる罪であるため、裁判員裁判対象事件であり、起訴された後も、公判前整理手続が行われ、事件が長期化することが見込まれます。
裁判員が存在するという負担もありますし、事件が報道されてしまった可能性も濃厚に存在します。
このような重い手続を乗り越えるためには、刑事事件に熟練した弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

(参考)裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
第二条 地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条又は第三条の二の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
二 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)

~Aさんの処分の見込み~

ケースの事件は、初犯であっても刑務所に行かなければならない可能性が十分見込まれるものです。
刑の執行を猶予されれば、刑務所に行かずにすみますが、執行猶予を付けることができる条件の一つとして、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」であることが必要です。
強制わいせつ致傷事件について有罪となり、特に加重減軽がなされない場合、「無期懲役」か「3年以上20年以下の懲役」を言い渡されることになります(刑の減軽事由があれば、これより軽い刑を言い渡されることもありえます)。

ということは、法定刑のうち、最も軽い量刑による判決を受けるのでなければ、実刑判決を免れないということになります。

被害者に謝罪をしたうえで、生じさせた損害を賠償し、再犯防止策を提示できるのでなければ、執行猶予付き判決の獲得はかなりハードルが高いといえます。

いずれにしても、Aさんの考えているように、簡単に事件を解決することは不可能と思われます。
強制わいせつ致傷の疑いで逮捕されてしまった場合は、早期に弁護士を依頼し、善後策を立てていくことを強くおすすめします。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を専門とする法律事務所です。
ご家族が強制わいせつ致傷事件を起こし、逮捕されてしまった方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

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