【制度紹介】刑法改正 痴漢行為の処罰への影響について①
刑法が改正されたことによる痴漢行為に対する処罰への影響について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
会社に通勤するために混雑する電車に乗っていたAさんは、目の前に立っていた女性のスカートの中に手を入れて下半身を触りました。
被害を受けた女性Vが声を上げたことで、近くにいた男性がAさんの犯行に気づき、Aさんは、現行犯逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
性犯罪規定を見直した改正刑法が成立
不同意性交等罪の新設を含む改正刑法は、2023年6月23日に交付され、施行日は同年7月13日となります。
7月13日以降の事件については、後述する「不同意わいせつ罪」及び「不同意性交等罪」が適用されることになります。
今回の改正で。「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」が統合され、新たに「不同意わいせつ罪」という罪名になります。
また、「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」も同様に統合され「不同意性交等罪」に罪名が変わります
今回は「不同意わいせつ罪」の条文の内容について解説します。
「不同意わいせつ罪」について
まず、条文については以下のように変わります。
第176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕(がく)させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。
痴漢行為に対する処罰に影響を与える変更点としては、必ずしも暴行、脅迫が要件ではなくなったことです。
不同意わいせつ罪の構成要件は、①1号~8号又はこれに類する行為により②同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、③わいせつな行為を行うことです。
そのため、これまでは暴行又は脅迫までは認められないとして強制わいせつ罪には問われなかった行為が、不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
たとえば、電車内での痴漢行為は、5号や6号の事由に当たり得るため、今後いかなる判断がなされるかには注意する必要があります。
次回は、痴漢行為の処罰に影響を与える「不同意性交等罪」について解説します。